それでもワインが飲みたい

土日更新の脱力定期ワイン便です

Savigny Les Beaune 2019(Simon Bize)


サヴィニー レボーヌ(シモン ビーズ)

「私はひたすらやり直すことで人生を過ごしている。しかしどこからやり直すのか」
フェルナンド ペソア
全く同じことが繰り返されたところからか、はたまた道を誤ったと自覚したところからか。

19年物のリリースもそろそろ最終段階。こちらの19年がちょうどよく購入できたので早速試飲。
色はそこまで濃くなく、綺麗なパーガンディーレッド。期待を胸にグラスに花を近づけてみると、
はうわぁ!!??
攻めた姿勢は見せていないものの明らかにそれと分かる自然派香に震えと動揺の稲妻が頭から全身を貫く。

悟った… 口から出たのはその一言だけだった。

私に喜びの感情も怒りの感情も悲しみの感情もなかった。最終解脱の瞬間だった。私はインドの菩提樹の下でもポルトガルのファティマでもスペインのサンチャゴへの巡礼路でもなく普通に開けたワインがごく自然に自然派香に包まれていた時に解脱したのだった。適当に選んで良いワインにあたる事はないがよくよく選んで良いワインにあたるとも限らない。前年にいいワインだからと言って今年もいいワインになる保証はない。ましてや金銭的に高いから(競争倍率が高いからと言って)味が超弩級ということもない。このナチュール香は心で止まっている涙と共に私に引退を決意させた。しかしそう思った瞬間に娑婆に戻ってきてしまった。こ、これは?
そうだった。この娑婆にいる限り解脱あるいは涅槃など起こらないのである。もし涅槃が起こるとするなら俺はやりきったと言って鬼籍に入る時なのだ。

「輪廻の輪から出ろ」
釈尊

私が今考えることはことは少しでも長くこの市場にい続けることである。このクソ高くなったブルゴーニュに唯一実践的スキルがあるとするならば、それはsurviveしかないのだ…

謎の忠告
「紐が切れないようにするためにまずそれを噛め」
ニーチェ


香りは甘草の甘いスパイシーに少し煮詰めたチェリー、そこから湧き立つように黒土の大地香。あくまでも想像ながら亜硫酸の少なさゆえか柔らかさを持ちながらしっかり香ります。
味わいも液体柔らかく赤系果実に黒い風味が乗ってきます。酸味も尖ったところはなく、暖かい印象です。酢酸の危うさはないものの甘ったるいと思ってしまう人はいるかもしれません。当然ながらボトル差もあると思いますが果たして?暫く前に飲んだChanterevesのペルナンの方がナチュール感は強いです。因みに2日目は何故かナチュール感がやや薄まっていて更に謎が深まるばかりです。一級以上飲んでみなないとわからないかな。

「大衆が求めるのは情熱のイメージであり、情熱それ自体ではない」
ロラン バルト

まぁ、ほとんどいないでしょうがもしこれを読んでいる好事家、御贔屓筋の方でブルゴーニュ以外の自然派ワインをガッツリ飲むと言う方はニュアンスがあって柔らかく美味しいブルゴーニュの一本になるかもしれません。
注意としてはワインはボトル差、自身のコンディション、飲み手の感性、そのワインを飲むタイミングなどで全く違う印象を持つことがあります。作り手はpassionとphilosophyを持っているのは間違いありません。ただしpassion には"情熱"の他に"受難"という意味があります。飲み手サイドでまとまな神経のお持ちの方ならこの先続けるには受難しか待っていないのかもしれません。苦笑

「大体不満屋ってのは世の中との折り合いが悪いんじゃなくて、自分との折り合いが悪い奴のことなんだから。」
寺山修司